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夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)
夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

彼女いない歴二十数年の主人公が恋に恋して大暴走。というのは以前に読んだ『太陽の塔』と同じなのだが、『夜は短し…』では主人公の思い人〈黒髪の乙女〉の視点でも物語が進行していく。

不思議な登場人物、奇想天外な出来事が飛び出す森見ワールドを楽しみつつ、いつの間にやら主人公を応援し黒髪の乙女の魅力に私まで惹かれてしまう。黒髪の乙女は主人公の部活の後輩として入学してきた大学一年生。機嫌がいいと二足歩行ロボットの真似をしてフワフワと不思議なステップを踏み、自分の身に危険が迫れば得意技の〈お友だちパンチ〉を繰り出す。下鴨神社の古本市や学園祭に一人で出かけ奇妙な人たちと友だちになったり、京都市一帯を襲った災厄と戦い見事勝利を収めたり…。恋愛に縁がないのは彼女も同じで、先輩の「ナカメ作戦」(なるべく彼女の目にとまる作戦)に気付く気配もなく、たびたび彼と出くわすのもただの偶然だと信じて疑わない。黒髪の乙女は大学入学後の一年を楽しく過ごせ、十分満足のようだが、先輩との関係も順調に進展していって欲しいと願わずにはいられない。

個人的には学園祭に登場した「秘宝館」と「桃色ブリーフ」が気になる…。

書評:花村萬月『惜春』

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新宿のキャッチバーで働く青年がだまされて雄琴に連れてこられた。青年に与えられた仕事はトルコ風呂のボーイ。彼が初めて目にする街の光景は異様なものだった。田圃や畑しかない所に密集した派手で巨大な建物。寮だと言って与えられた部屋は物置としか思えないプレハブ小屋。レストランのメニューは豚カツ1850円など5割増しの雄琴値段。大型バスで乗り付ける雄琴バスツアーの男性集団。こんな特殊な場所が本当にあるのだろうか。

この作品を読む前に私も雄琴には行った事がある。サークルの旅行で温泉に行って帰りは京都で遊んだ。日本の民話をテーマにした上品な雰囲気の旅館に泊まり、そこまでの道中もソープランド街の雰囲気は全く感じられなかった。私の世代では雄琴=ソープランドという認識が全くない。だから三十歳以上年上の人に「友達と旅行で雄琴に行った」と言って「何でそんなところに?」と言われてきょとんとしてしまった。「そんなところって?」と聞き返して雄琴がソープランド街として有名だったことを知った。その旅行から数年後、雄琴駅はおごと温泉駅への名称変更を決定した。「温泉であることが一目でわかるように」ということだそうで、温泉街としての発展を目指す街にとって、ソープランド街のイメージが邪魔になったためかもしれない。

流されるままにトルコ風呂で働くことになった主人公の青年だが、気が弱いように見えて自分をしっかり持った魅力的な青年だった。他人の事情を察知する能力にすぐれ、固定観念でものを見ることができない。その青年が一度だけトルコ嬢と京都でデートをするシーンが印象深い。トルコ嬢が雄琴に就職する時、夜行列車で京都に着いた朝食べたラーメンの話をする。その話が何とも切なくて悲しい。そういう話をする相手としてこの青年を選んだのも頷ける。この作品で描かれる街は私にとって足を踏み入れることもない場所だけど、いたたまれなさや空しさをぎゅっと詰め込んだその街の雰囲気を味わうと、それが自分とは無縁の場所とは思えなくなるから不思議。

平積みされているのを本屋で見かけタイトルが気になって手に取った。裏表紙には「失恋をしたすべての男たちとこれから失恋する予定の人に捧ぐ」と書いてある。余計なお世話だ。それに私は男でもないし失恋する予定もない。そう思いながらも何だか気になって買ってしまった。

主人公は女性とは縁のない生活を送っていた京大生。登場人物が京大生ということで京都の地名が出てくるのが私にとっては面白い。馴染みのある地名が出てくるとワクワクしてしまう。スピード感があってユーモラスな文体も読みやすくて好きだし、「確かにこういう人いるよなぁ」と架空の人物に親しみを感じてしまう。

三回生のとき、主人公に水尾さんという恋人ができる。後に振られることになるのだが、彼は別れ話を紳士的に済ませる。そのくせ、どうしても振られたという事実を受け入れられない主人公は「彼女はなぜ私のような人間を拒否したのか」という疑問を解明するため『水尾さん研究』と名づけるストーキング行為を開始する。痛い、痛すぎる。このヘタレっぷりがたまらない。

主人公は水尾さんに「私のどこが好きなんですか」と言われたことがある。おそらく「女性とはこういうものだ」「彼女とはこういうことをしてくれるものだ」という考えが先行してしまい目の前の相手がちゃんと見えていない主人公に、彼女が疑問を持ったのだと思われる。「彼女」がほしいのか?私と一緒にいたいのか?いったいどっちなんだ?という彼女の疑問が、恋に恋して大暴走中の主人公に理解できるはずもなく「自分の愛が疑われた」とでも思ったのだろう。あろうことか主人公は彼女に対して怒ってしまう。女性と付き合っているという事実に浮き足立ってしまう男をかわいいと思えるほど20代前半の女性は大人ではないし、他人と一対一で向き合えるだけの力量がない人間を物足りなく思うのも仕方ない。私だってあんまり付き合いたい相手ではないなぁと思うのが正直なところだ。だから彼女の気持ちはよくわかるのだけど、どうしても不器用でちょっとズレてる主人公を憎めない。主人公が失恋から何も学ばずこのまま突っ走ってくれれば嬉しいんだけどなぁ。

森見登美彦『恋文の技術』,読了.内容には触れず「とにかく読んで!」と@tremensに勧められたものです.

これは面白い.確かにオススメするのに内容の紹介が難しいし不要.森見登美彦好きなら是非読んで!の一言です.しかし森見登美彦氏は馬鹿で破廉恥な学生を文豪風に描くことにかけては日本一ですね.

小説の体裁は書簡体小説.京都の大学院から能登半島の研究室に送り込まれた主人公・守田一郎が無聊を慰めるために友人や妹に書いた手紙をまとめたものです.設定からして文豪風.

作中で明らかになっているのは,守田一郎からの書簡のみ.一見手紙が並んだだけなのに,1通1通がユーモアとパロディに満ちていておかしく,またまとめて上手くストーリーを構築しているのはさすが.最初から最後までテンションが変わらず,笑い転げて,そしてちょっと温かい小説です.

うん,アバウトな書評だけれど,内容に触れるのはナンセンスな小説だから仕方ない.

最後に,本書を読むことにより守田が目指す「手紙一本で女性を篭絡する恋文の技術」が身につくかは分かりません.しかし,愛の告白のためにキモい手紙やメールを書こうとしている恋に悩む若者は,その前に絶対に読んだ方がいいと思います.

この夏に,「走れメロス」のルートを再現しようとするために文庫版を購入し持ち歩いた,森見登美彦『新釈 走れメロス 他四篇』.再現旅は個人blog参照.

森見登美彦『新釈走れメロス』を実践する京都市内の旅

森見登美彦により現代版にアレンジされているのは,次の5作.

・中島敦「山月記」
・芥川龍之介「藪の中」
・太宰治「走れメロス」
・坂口安吾「桜の森の満開の下」
・森鴎外「百物語」

改めて読むと表題作はもちろん面白いのですが,本書の皮切りとなる「山月記」が素晴らしい.

京都吉田界隈にて,一部の関係者のみに有名を馳せる孤高の学生がいた.(P.9)

書き出しの一文が実に引き込まれます.傲岸で哀しい詩人の話を,ダメ大学生に置き換えてこんな面白い話を書くとは.この発想はすごいと思います.実は筆者も書いてみたかったらしく,「文庫のためのあとがき」で執筆の理由が三つ挙げられています.

一つは,孤高の腐れ大学生を主人公にして「山月記」を書くというあまりにも魅力的な提案に,どうしても抗えなかったこと.もう一つは,こういった古典的名作の書き換えは「物語を書く」という商売では,むしろ王道であるはずだと思ったこと.最後の理由は,もし誰かに叱られたところで失うものは何もなかった,ということである.(P.255)

もうひとつ,「あとがき」で原典の魅力を語っているのも興味深い.

「山月記」は,虎になった李徴の悲痛な独白の力強さ.「藪の中」は,木に縛りつけられて一部始終を見ているほかない夫の苦しさ.「走れメロス」は,作者自身が書いていて楽しくてしょうがないといった印象の,次へ次へと飛びついていくような文章.「桜の森の満開の下」は,斬り殺された妻たちの死体のかたわらに立っている女の姿.「百物語」は,賑やかな座敷に孤独に座り込んで目を血走らせている男の姿である.(P.252)

興味深いのだけど,「山月記」と「走れメロス」しか読んでいないんだよな…青空文庫で読もう.


小説に限らず,こういったパロディは(オリジナルに敬意を払っている限りでは)面白くて面白くてたまらないのですが,Amazonのレビューを見ると「許せない」とか懐の狭い人が結構いるんですよね.やれやれ.

読書会も開催してることだし,京都っぽい本を読むんだ.ということで,森見登美彦のデビュー作『太陽の塔』,読了.

「私」こと主人公の森本は,ヒロイン・水尾さんにふられた京大5回生.彼はかつての恋人である水尾さんに関する独自の観察を続け,240枚に及ぶ大レポートを書いている…

という大学生の妄想に溢れたストーキング(本人自覚ゼロ)を語る青春小説.これだけおバカな京大生を描き,かつ無駄に文豪を思わせる文体の作家は,当代では森見登美彦をおいて他あるまい!この人は愛すべきバカだ!(褒め言葉)純粋に娯楽小説としてウヒャヒャと笑いながら読める作品です.

…と,モテない理系大学生の妄想生活を写実的に描写していると私(かつてのモテない理系大学生)は思ったのだが,ファンタジーノベル大賞を受賞しているのね本作.どこがファンタジーだったか,いまひとつ理解できていない…誰か教えてください.

選評|第十五回日本ファンタジーノベル大賞|新潮社

選評を読んでも分からん…

三浦しをんを読みまくっています.今ある著書を全部漁ろうとするのは,人生の中でも永倉万治さん,松久淳さんに続いて3人目です.それくらいハマっている.ということで『仏果を得ず』読了.

タイトルにある「仏果」とは「仏道修行の結果として得られる成仏という結果」という意味だそうです.

ぶっか【仏果】 - 国語辞書 - goo辞書

仏果という重い言葉なので坊さんBLかと思いきや,テーマはなんと文楽!芸に賭ける青春小説!ちなみに表紙イラストは勝田文.知らない人ですけど綺麗な絵.

石田衣良『シューカツ!』は,タイトル通り就活をテーマにした青春小説.主人公・水越千晴ら7人が最難関のマスコミへの内定を目指して就活プロジェクトチームを結成し,その活動を終える1年間が描かれています.

Amazonのレビューを見る限り結構酷評が多いですが,個人的には良書だと思います.

『ショートカット』『いつか,僕らの途中で』に続いて,柴崎友香さんの本を読むのは3冊目です.

柴崎友香『また会う日まで』
また会う日まで

「渋谷のコインロッカー.帰りに通るやんな」
今日から一週間,しょうちゃんの部屋に泊めてもらう.

著者お得意の関西弁トークが,東京で繰り広げられる話.素晴らしいくらい何も起こらなくて平和だ.「何も起こらないジャンル」を設立した著者に乾杯.

これはまいった.

森見登美彦さんの名前はなんとなく知っていて初めて読みましたが,これは面白い!太宰治「走れメロス」,坂口安吾「桜の森の満開の下」,中島敦「山月記」などの名作のパロディです.否,パロディというよりパスティーシュ(文体模写)!たとえば「走れメロス」は以下のような感じです.

学祭のとき,芽野が詭弁論部の部室を奪われたのに怒る
→抗議に行って捕われる
→学祭の最終日に,吹奏楽部の「青きドナウ」演奏をBGMとして裸でピンクのブリーフで踊ったら許してやろう
→否,明日は郷里の姉の結婚式だ…
→友人を人質に…

という流れです.このおかしさ伝わりますか?

しかし見よ、目前の加茂川を。

すみません,書いてておかしくてたまりません.

こんな感じで原作を現代版に直した口調で進みます.しかも全編を通じて京都大学(筆者の母校らしい)をネタにしているらしく,左京区がどうの,近くの漫画喫茶がどうのというおバカな学生ライフを描いているのが笑えます.

パスティーシュといえば清水義範でしたが,ようやく後継者が出てきたのかも.

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