小津安二郎とも池波正太郎とも - 谷口ジロー『ふらり。』

谷口ジローといえば『孤独のグルメ』(原作:久住昌之)というほどネットでの人気も高い漫画家.その最新刊を本屋で見かけたので購入.

ふらり。』は,散歩マンガ.散歩マンガというジャンルを生み出せるのは広い世の中にも谷口ジローくらいではなかろうか.『散歩もの』(原作:久住昌之),『歩く人』といった散歩マンガを書いている氏であるが,本書は200年ほど前の江戸の町を歩くという斬新さ.

隠居した中年の主人公が,歩測をしながら深川や日本橋,品川を歩き,ときに独り言を,ときに酒を呑む.このスタイルは『孤独のグルメ』も『散歩もの』も同様.安定のクオリティ.一方,本書では主人公の視点だけでなく,買い求めた亀や空行く赤蜻蛉の視点から町を眺めてもいる.マンガ的で実に斬新.

言ってしまえば「ただ町を歩く」だけのマンガが,どうしてこんなに面白いのか.それは町の情景がありありと描かれていることに他ならないだろう.町の美しさも,女性のなまめかしさも,料理の旨さも.氏のマンガがかねてから小津安二郎に喩えられるのも納得.加えて言えば,本書は江戸時代後期を舞台にしているだけに,池波正太郎の世界観に通ずるものも感じる.

氏の従来の作品好きにも,『剣客商売』『鬼平犯科帳』に出てくる江戸の町を歩いてみたいと思う人にもオススメ.最近ようやくこの作家のよさが分かるようになってきた(年齢?).『孤独のグルメ』を再読してみるか,いや『センセイの鞄』を読もうか,と悩ましくなる一冊.