書評:吉本ばなな『キッチン』

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両親を亡くし祖父母に育てられたみかげ。中学生の頃に祖父が亡くなり、大学生になって祖母も亡くなってしまう。祖母と二人で住んでいた家を引き払ってもっと小さくて安い部屋に引っ越そうと思うけど、なかなか行動を起こせないまま時間は過ぎていく。

ある日、祖母の行きつけの花屋でアルバイトをしていた青年がみかげのもとを訪ねる。青年の名は雄一。「うちにしばらくいればいい」という雄一の申し出で、みかげはしばらくの間雄一とその母えり子と三人で暮らすことになる。えり子はもとは男だったのだけど、雄一の母の死をきっかけに女になって女手一つで雄一を育ててきた。そんな彼女がみかげに言う。「人生は本当にいっぺん絶望しないと、そこで本当に捨てらんないのは自分のどこなのかをわかんないと、本当に楽しいことが何かわかんないうちに大っきくなっちゃうと思うの。あたしは、よかったわ」

のちに料理の先生のアシスタントになったみかげの料理に対する情熱を見ていると、確かにえり子さんの言うことは当たっていたなぁと感じる。自分にとってどうしても必要なものを失いそうな場面でも、彼女にとっての【本当に楽しいこと】が彼女を助けてくれたし…。

夜中に食べたカツ丼があんまりおいしくて思わず持ち帰りを頼んで雄一に届けに行ってしまうシーン。「カツ丼の出前に来たの」「わかる?一人で食べたらずるいくらい、おいしいカツ丼だったの」と言って、みかげはリュックの中からカツ丼のパックを取り出す。ここまで読んで「もう大丈夫だ」と安心した。すごくいいシーンだなぁと思う。私もカツ丼を食べたくなってしまった。