書評:瀬尾まいこ『幸福な食卓』

佐和子の母はある事件を機に家出し、父は「父さんを辞める」と宣言する。こんな風に話が進むと家族がバラバラになる話かと思うが、決してそうではない。父さんの役割をポイっと投げ出して自由になったつもりでも、子どものことが気にかかる以上父さんは父さんだったりする。家族という関係から自由になろうと思えば、家族内での役割を放棄するだけではなく家族への思いも断ち切らなければならない。それがなかなか難しいだけに家族は遠慮なく甘えられる安定した関係でもあるのだけど…。

「妹が落ち込んでいるせいで、兄まで落ち込んでしまって迷惑だ」と佐和子に詰め寄る兄のガールフレンドが面白い。辛い時ほど一人になりたいと思うものだし一人で落ち込んでいるつもりになるものだけど、一人の人間が落ち込んだり立ち直ったりするのに実は何人もの人間が影響を受けている。何かが起こってしまった時に初めて気付く人との距離感も面白い。仲良しだと思っている友達にもある程度遠慮があったり…。他人が自分に対して抱いているイメージに戸惑ったり…。作品で描かれる人間関係が家族関係にとどまらないところが良かった。