書評:重松清『ステップ』

結婚三年目で奥さんが突然亡くなってしまい、一人で一歳の娘を育てる決意をしたお父さんが主人公。仕事が長引いて保育所に迷惑をかけたり、小さい子どもを育てているということで会社の人たちに気を遣わせてしまったり…。読んでる方としては「仕方ないやん」と思うのだけど、お父さんはどうしても自己嫌悪に陥ってしまう。娘を亡くした義父母との関係も、孫をかわいがってくれるのはありがたいと思いつつ、時々うっとうしく感じられることもあったり…。楽しいことばかりじゃない、どちらかと言えば大変なことばっかりの生活なんだけど、それでも美紀ちゃんとパパの生活は何だか幸せそうだ。2歳で保育所に入るところから小学校を卒業する12歳までが描かれるのだけど、美紀ちゃんだけじゃなくお父さんも一緒に成長しているのがうかがえるところがいい。

「お父さん一人では大変だろう」とか「女の子には母親が必要なんじゃないか」と考えて再婚をすすめてくれる人たちがいるのはありがたいことなんだけど、「両親が揃ってて、できることなら子どもが二人ぐらいいて…」という家族構成を理想とすることにはちょっぴり疑問も感じてしまう。不妊治療を断念した翠おばさんがいたたまれなくなって引っ越してしまったニュータウンの雰囲気や、延長保育が六時までであることを申し訳なさそうにする保育士さんを描くことで、母子家庭・父子家庭や夫婦二人暮らしが「ふつう」からちょっとはみ出た家族構成だということを思い出させる。

私は「亡くなった奥さんだけをずっと愛し続けるべきだ」なんて思わないし「奥さんの代わりに母親をやってくれる人をみつけるべきだ」とも思わない。生きていようが生きていなかろうが、血がつながっていようがいなかろうが、本人たちが自分たちが家族でいることを選べば、誰が何と言おうとそれで十分だ。亡くなったママ以外に、美紀ちゃんやパパのことを本気で考えてくれる誰かがいればそれは幸せなことだし、その人と家族として生活していくのもきっと楽しいだろうけど、それでもやっぱりその人がママの代わりになれるわけじゃないし、なる必要もないんだなぁと思った。

翠おばさんやお父さんの部下のヤンさんが台湾のアイドルグループに夢中になっているエピソードもよかった。真面目で自分に厳しくて不器用な女性が中学生みたいにはしゃぐところを見ると、何だかホッとする。