書評:村上春樹『ノルウェイの森』

  • 投稿日:
  • by
  • カテゴリ:

10月の読書会,課題図書は村上春樹『ノルウェイの森』。ついに私が村上春樹を読む日が来た…

私と村上春樹。単行本が刊行された1994年頃に読みましたよ,『ねじまき鳥クロニクル』。あまりの話の訳分からなさに途中でぶん投げましたよ。後から聞くと,最初の村上作品として『ねじまき鳥クロニクル』は敷居が高かったそうですが…

一度読んだから食わず嫌いではないですが,作中の人物の無駄にスタイリッシュな生活描写,難解なストーリー,信者とも言うべき熱狂的ファンの礼賛…それらが相まって,以来一度足りとも村上春樹は読んできません。もともと純文学があまり得意ではないこともあります。なので,私の村上春樹に対するイメージはこんな感じ:

  • やれやれ。
  • 僕はまずパスタを茹でようと思った。
  • 射精した。

しかし,読書会の課題図書となったこともあり(サイコロで決めた),主催者たる私が読まない訳にはいかない!ということで,実質初めての村上春樹『ノルウェイの森』,気合入れて読むよ!負けるな私!

あれ,普通に面白い…夢中になって上下巻一気に読んでしまいました…

ということで,村上春樹セカンドバージンの私が,同じように毛嫌いしてきた人のために『ノルウェイの森』の読み方なんてのをまとめてみたいと思います。ネタバレなしで。

基本は自分探し

100パーセントの恋愛小説」というキャッチフレーズの本書ですが,基本的には自分探しの話だと思います。私は「やりにげの男がいろんな人とセックスする話」と聞いていたのですが,それは違いましたか。

主要登場人物はおおむね「私は普通じゃないので周囲から理解されないの」という感じ。悪く言えば中二病。ワタナベはまさにこれ,精神を病んでいる直子を中二病と断ずるのは問題かもしれないけど,永沢さんもエリートながらこれ…

そういう若者特有の「普通じゃない私」の恋愛と葛藤,喪失,そして世間を知っていくストーリーです。

キャラクターの魅力を楽しむ小説ではない

純文学ではよくあることだけれど,練りに練ったキャラクター設定を楽しむ小説ではないと感じました。

上記のように「自分が何者か考える」人物が多く,多様で個性的なキャラクターが登場するかというと,そうではない。キャラとして立っているのは永沢さんくらい?僕(ワタナベ)は典型的な純文学小説の主人公という感じだし…

ヒロインの直子にしたところで,作中「美しい」とは表現されているけれど,何がどう美しいのかほとんど言及されていないし,造形的にも精神的にもどこに魅力があるか直截的な表現はないように思います(※これは映画で直子を演じる菊地凛子さんを私があまり好まないことにも理由があるかもしれないが…)。

魅力的ではない,もしくはどこか欠落しているキャラクター。村上春樹はキャラクター付けにあまり興味がないのかな。

独特の文体をどう読むか

村上春樹といえば独特の文体!『ねじまき鳥クロニクル』を読んだときには訳分からん…と思ったけど,文章自体は分かりやすいものだったので驚きでした。これはWikipediaにも書かれています。比喩は難解ですけど。

平易な文章と難解な物語

もうひとつ,あまり細かいロジックは気にしてはならないのでしょう。上巻の後半に,施設を訪問したワタナベが直子と山に出るシーンがあります。

それから十分ほどで坂道は終り,高原のようになった平坦な場所にでた.我々はそこで一服して汗を拭き,息を整え,水筒の水を飲んだ.レイコさんは何かの葉っぱをみつけてきて,それで笛を作って吹いた.(P.281)

この水筒,実は出発シーンからまったく触れられず,突然登場します。東野圭吾や田中芳樹のような論理的な文章を書く人だったら「水筒のお茶は僕が淹れた」「直子はこの時ようやく水筒の存在に気づいたようだ」くらいに表現しそうですが,それがない。

本題に関係のない小道具なんてと思われそうですが,主にミステリーを読んでると何が伏線になるか分からないので細かく読んでしまいます。そういうのは気にしない方がいいみたい。

つまるところ,村上春樹の文章は流暢で無駄が多くてまどろっこしくて流麗でめんどくさいけど,論理的な文章ではなく音楽や詩の一種だと考えれば意外とリズムが心地よいということが分かりました。

頻出するセックスの話

良い子の諸君!『ノルウェイの森』を読むとセックスより手コキにハマりそうになるから注意が必要だ!

結局のところファンタジー

結局のところファンタジーとして,あまり考えずに読む作品なのではないかと感じました。主人公たちより少し大人になった読者が,若かりし頃を振り返って「やれやれ」と思うようなファンタジー。だから何なの!とかは思ってはいけない。

逆に,40代50代になっても「登場人物に共感する」という大人はどうなのかな,ちょっと中二病をこじらせすぎなのかな…という作家かと思いました。もっとも村上春樹の作風は時代により変遷するらしいですけど。

でも村上春樹を避けてきた私のような30代くらいが読むには面白いと思います。映画化もされることだし,これをきっかけにどうぞ。実は映画も楽しみにしています。

映画|ノルウェイの森

まとめ・村上ハルキ初心者の憂鬱を払うために

最後に,ハルキ初心者(もしくはアレルギー持ち)が村上春樹作品を読むためのコツを私なりにまとめます。

  • 中二病をこじらせたキャラクター設定は気にしない。
  • 文章の細かいロジックは気にせず,音楽や詩のようにリズムを感じながら読む。
  • 過去の自分自身の恥ずかしい失敗を赦せる大人になってから読む。
  • 手コキにハマらないように,ちゃんとセックスを経験してから読む。
  • それでも受け付けなかったら,「やれやれ」と呟いてそっと本を閉じる。

最後は「おのれディケイド!」でも可。


最後に強いて挙げれば,年代によって感想が変わるかもしれません。僕はワタナベ君と同じ20代から離れてしまったけど,自分が40代50代になったときにどんな感想を抱くか興味があります.