書評:森見登美彦『新釈 走れメロス 他四篇』(再読)

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この夏に,「走れメロス」のルートを再現しようとするために文庫版を購入し持ち歩いた,森見登美彦『新釈 走れメロス 他四篇』.再現旅は個人blog参照.

森見登美彦『新釈走れメロス』を実践する京都市内の旅

森見登美彦により現代版にアレンジされているのは,次の5作.

・中島敦「山月記」
・芥川龍之介「藪の中」
・太宰治「走れメロス」
・坂口安吾「桜の森の満開の下」
・森鴎外「百物語」

改めて読むと表題作はもちろん面白いのですが,本書の皮切りとなる「山月記」が素晴らしい.

京都吉田界隈にて,一部の関係者のみに有名を馳せる孤高の学生がいた.(P.9)

書き出しの一文が実に引き込まれます.傲岸で哀しい詩人の話を,ダメ大学生に置き換えてこんな面白い話を書くとは.この発想はすごいと思います.実は筆者も書いてみたかったらしく,「文庫のためのあとがき」で執筆の理由が三つ挙げられています.

一つは,孤高の腐れ大学生を主人公にして「山月記」を書くというあまりにも魅力的な提案に,どうしても抗えなかったこと.もう一つは,こういった古典的名作の書き換えは「物語を書く」という商売では,むしろ王道であるはずだと思ったこと.最後の理由は,もし誰かに叱られたところで失うものは何もなかった,ということである.(P.255)

もうひとつ,「あとがき」で原典の魅力を語っているのも興味深い.

「山月記」は,虎になった李徴の悲痛な独白の力強さ.「藪の中」は,木に縛りつけられて一部始終を見ているほかない夫の苦しさ.「走れメロス」は,作者自身が書いていて楽しくてしょうがないといった印象の,次へ次へと飛びついていくような文章.「桜の森の満開の下」は,斬り殺された妻たちの死体のかたわらに立っている女の姿.「百物語」は,賑やかな座敷に孤独に座り込んで目を血走らせている男の姿である.(P.252)

興味深いのだけど,「山月記」と「走れメロス」しか読んでいないんだよな…青空文庫で読もう.


小説に限らず,こういったパロディは(オリジナルに敬意を払っている限りでは)面白くて面白くてたまらないのですが,Amazonのレビューを見ると「許せない」とか懐の狭い人が結構いるんですよね.やれやれ.