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[tremens]書評:三浦しをん『星間商事株式会社社史編纂室』
三浦しをんの小説は、実験的なまでにいつもなにかが新しくて面白い。
「光」では、決して救われることのない闇と暴力を書き、「神去なあなあ日常」は、小説の舞台としてはほとんど描かれることのなかった林業の現場とアニミズムな風景、そして彼らの祭りの“熱”を、アツくしかし爽やかに書いた青春小説だった。そしてこの「星間商事株式会社社史編纂室」では腐女子(自称はしていない)の生態と企業ミステリをコミカルに書いている。
ほんとうにひとりの作家か?と思うほどに、それぞれテーマも雰囲気も違う。新しい物語のたびに文体を書き分け、三浦しをん的マンネリズム、というものを許さないのだ。画家がさまざまな手法を試行錯誤しながら絵を描くように、彼女も作品ごとに模索しているのだろうか・・・とも思うけれど、本オタクで文体フェチの三浦しをんのことだから「書きたいテーマごとに合う書き方があるでしょう」といいそうな気もする。
そういうわけで、「星間商事株式会社社史編纂室」は星間商事の社史編纂室OLでありBL小説の同人作家でもある主人公・幸代が、社史を編んでいくにあたって会社の歴史に「裏の顔」があるのではないかと思い始め・・・というゆる系ミステリである。小説内において、主人公の性格付け以外に「同人誌」の使い道なんてあるのか?と思っていたけれど、これが「社史」と絡んでくるところが面白い。わはは、そうしちゃうんだ、としか言いようがない。
幸代の書くBLやそのほかの小説中小説もなかなか良い。小説を書くひとが主人公、ということで、村上春樹の「1Q84」を思い出した。「本の形として物語を残していくこと」が幸代の活動に非常に大きく関わってくるのだけれど(趣味、仕事、ミステリ要素)、「1Q84」は「ものがたること」がテーマのひとつに入っている。
「ものがたること」は昔話や童話などメタファーを用いてひとのこころの基礎となるものを表現する、原始的な欲求のように思うのだけれど(とても重要だ)、「媒体として物語を残すこと」はその欲望を文字通り言語化するわけだから、文化的な作業といえる。かつ、発表するという行為は自己承認欲求にもあたる。
「小説を書かずにいられない」のと「本を残したい」というのは、欲求の出どころが微妙に違っているのだなあ。
この作品の性格上、「三浦しをんの小説を他にも読んでいて」「エッセイも好き、もしくはゆるいコメディ小説も容認できる」「腐女子とかBLも(知らなくても存在として)あり」という背景がないと作品世界に入って行きにくいかもしれないけれど、いろいろな要素が入っていておもしろい作品だと思う。
雰囲気が違う、文体を書き分けている、と言ったけれど、すこし大仰なまでに豊かにひとの想いを書き上げる、字の文の「謳い」は今回もある。
まあ、悲観するのはやめておこう。定職に就き、夫や子どもがいても、荒野で生きるひともいる。だれの声も聞こえず、だれにも声が届かない場所で、凍えるように生きるひともいる。自分の足が踏みしめる大地を、荒野に変えるか否かは、いつだって本人の意思にかかっている。いろいろなひとを見て、幸代にもそれぐらいはわかるようになった。(p.95)
どうということのないことを言っているのだけれど、表現のこのセンスが好き。
三浦しをんは原稿を「音読」してチェックするらしい。だから美しく流れ、謳い上げる文章になるのかな。
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2010年09月02日 21:14
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