書評:三浦しをん『仏果を得ず』

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三浦しをんを読みまくっています.今ある著書を全部漁ろうとするのは,人生の中でも永倉万治さん,松久淳さんに続いて3人目です.それくらいハマっている.ということで『仏果を得ず』読了.

タイトルにある「仏果」とは「仏道修行の結果として得られる成仏という結果」という意味だそうです.

ぶっか【仏果】 - 国語辞書 - goo辞書

仏果という重い言葉なので坊さんBLかと思いきや,テーマはなんと文楽!芸に賭ける青春小説!ちなみに表紙イラストは勝田文.知らない人ですけど綺麗な絵.

本書はとにかくキャラクター設定が上手い.

・健太夫:マジメな若手太夫(語り手)
・兎一郎:三味線の腕は立つが変人,で健の相方となった「芸道の鬼」
・銀太夫:健の師匠で人間国宝
・亀治:銀太夫の相三味線

その他にも濃いメンツ.物語は健太夫が芸に悩み,兎一郎兄さんがぶっきらぼうにも助言しながら成長するという展開が主です.例えば近松門左衛門『女殺油地獄』の「河内屋内」の段の解釈に悩む下り.

兎一郎は唇の端に冷笑を浮かべた.「きみは恋をしたことがあるか?」
「そりゃありますよ」
「恋愛で男が要求される,一番大切なことは?」
「…優しさですかね」
「馬鹿か,きみは」
今度の兎一郎の笑いは,もはや嘲笑に近かった.「たいがいの男は,自分を優しいと思ってるものだろう.それなのに恋がうまくいかないことが多いのは,もっと大事なことがほかにあるという証拠だ」
「それはなんですか?」
「色気だよ」
「えー」
「はっきり言えば,セックスのうまさだ」
「ええー」(P.41)

こんな感じで,万事冷静で皮肉屋で型破りな兎一郎兄さんと健という構図で進められます.この展開何かに似ているな…そうだ,ハチクロの森田さんと竹本くんだ!確かに変人っぷりで兎一郎兄さんと森田さんがかぶる.

なお,せっかくなので他人の解釈も参照しておきましょう.

『仏果を得ず』(三浦しをん) : 本屋さんへ行こう!

『風が強く吹いている』でもそうでしたが、「愛すべきキャラクター」を描ける三浦さんの描き出す人間関係は本当に美しい。才気あふれる三味線の相方についたり、思わぬ大役をふられたり。さらに何年かぶりに恋愛したり。周りに期待されるということは、それに応えられるということは、こんなに充実した人生を生み出すんだなあ。

キャラクターの設定もさることながら,人間関係の描写が上手い.また困難に直面した主人公が悩みながら周囲の助言を受けながら成長する姿は,どこかスポーツ小説的であり,週刊少年ジャンプ的でもあります.芸事に生きるという分かりやすいストイックな姿勢は,『風が強く吹いている』に通ずるものがあるかも.著者はこの種のホモソーシャルを描くのが上手いのかな…とにかく筆が生き生きしている.

文楽という芸のストイックな精進あり,挫折と成長あり,秘められた過去あり,恋愛あり.これは面白い.『風が強く吹いている』好きにはオススメしたいし,文楽を知らない人が読んでも胸が熱くなると思います(私も知らない).素晴らしい青春小説です.

とりあえず文楽が観たくなった.大阪行くかな…