書評:石田衣良『シューカツ!』

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石田衣良『シューカツ!』は,タイトル通り就活をテーマにした青春小説.主人公・水越千晴ら7人が最難関のマスコミへの内定を目指して就活プロジェクトチームを結成し,その活動を終える1年間が描かれています.

Amazonのレビューを見る限り結構酷評が多いですが,個人的には良書だと思います.

評価するポイントは,大学3年生から始まる就職活動の流れがうまくまとめられていること.マスコミへの就職内定を目指す男女7人のチームの中には,早々に内定を得る者,苦労する者と差が出てきます.また,就職活動に悩む引きこもり,恋愛,社会に出ることへの不安や葛藤など,学生の心理が上手く描かれているのではないでしょうか.

最難関のマスコミの就職活動がこんなに順調に進むのかとか,早稲田大学という東京私立の雄をモチーフにしてる時点で結構恵まれているじゃないかとか,無論ツッコミどころは多いです.大学生が表参道のイタリアンでチーム結成式ってどんなバブル世代だよ!とも.しかし,この辺は尺の都合と著者の感覚というものなので目をつぶるべきかと思います.

就活の悲喜こもごもが簡単にまとめられており,社会に出ることへの不安の共有も含めて,特に学生には一読をオススメしたいです.社会に出た大人たちには心の洗濯に.フィクションで社会の概要を学ぶという意味では,『波のうえの魔術師』に通ずるものがあるかも.

作中では当然のように新卒至上主義が蔓延しており,長いことフリーター同様に過ごしていた著者(石田衣良 - Wikipedia)が書くのに皮肉っぽい感情を抱いていましたが,終盤で千晴に言わせる台詞は著者の心の主張だと思います.

「確かに正社員と非正規の契約社員やフリーターだと,生涯賃金で一億円以上も差がつくなんて新聞には書いてある.でも,ひとりひとりの人生って計算できるようなものじゃないから.自分で決めて損をする,でもその分自由に生きるっていうのだって,立派な選択だと思う.生涯賃金だけで人間の幸福が計れる,そんなふうに錯覚している人たちがいかれてるんだよ,きっと」(P.275)