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書評:三浦しをん『風が強く吹いている』

[tremens]書評:三浦しをん『風が強く吹いている』

書いた人:tremens

す、す、好きだぁーー!!と叫んでしまいそう。 
そう、そうして、あらゆるひとに押し付けていきたい作品。 
 
三浦しをんは2006年の直木賞受賞作家であり、 本作が受賞後第1作目だそうだ。 とはいえ、出会いは完全に「ジャケ買い」。定期的に行う「大型書店パトロール」の際に (普段はAmazonや近所の本屋で買い物を済ませますが、月に一度はこうして買い逃しがないか見て回る) 装丁の「どこからどうみても山口晃の作品」に驚き、手に取ったのがきっかけだ。

山口晃といえば、槇原敬之のCDジャケットもデザインし、

LIFE IN DOWNTOWN(初回生産限定盤)

倉敷の大原美術館でもその作品を目にし、大山崎山荘での個展も行き、と、世間でも、そして私の中でもかなり注目度の高いアーティストなのだ。 

帯には 『「速く」ではなく「強く」。目指せ箱根駅伝!』 とのコピー。 ふむ、青春小説ね。スポ根かなぁ。箱根駅伝、ってところが渋いね。 ま、装丁を飾っておくだけでも欲しいかも。 などと思い、買った次第。 

物語は、長距離ランナーとしての才能はあるのにさまざまな事情で現在「走れない」二人の大学生、灰二(ハイジ)と走(カケル)が知り合うところから始まる。ハイジの誘いに乗ってボロボロのアパートに住むことになるカケル。アパートには個性的な9人の住人がいたのだが、基本的には普通の大学生である。 ところがハイジの策略により、いつのまにやらたった10人で、 しかも陸上経験者は2人しかいないのに、箱根駅伝を目指すことになってしまうのである。 (黒人留学生もいるのだが、彼は理工学留学生のお坊ちゃまで、祖国では学校まで車での送り迎えがついていたという・・・) 

――と、初期設定は無茶苦茶なのだが、10人のキャラクターがきっちりみっちり書きわけられ、また台詞回しが非常に軽やかで若々しくユーモアあふれ、まずは読んでいて楽しい!そして、綿密な取材に裏付けられているからだと思うが、トレーニングや記録会の描写、「勝つため」の戦略なども書ききっているため、(陸上素人の私には)違和感なく説得力を持って読み進めることができる。 

上手い、と思い、そしてこの作品にどっぷり浸かって読んでしまうのは、「決め台詞」がそこかしこに散りばめられているからだ。 

「走」 
清瀬は走の言葉をさえぎった。「いいか、過去や評判が走るんじゃない。いまのきみ自身が走るんだ。惑わされるな。振り向くな。もっと強くなれ」(p.130)
走の魂を地上に結びつけてくれるものがあるといい。ユキはそう思った。ひとの生活、ひとの喜びと苦しみのなかに。そこに足をつけてこそ、走はきっと、もっと強くなれるはずだから。バランスが肝心だ。雪の山道を駆けくだるときと同じように。(p.410)
清瀬の声は澄んで深い湖のように、走の心の中で静かに潤う。「きみに対する思いを、『信じる』なんて言葉では言い表せない。信じる、信じないじゃない。ただ、きみなんだ。走、俺にとっての最高のランナーは、きみしかいない」(p.450)

さわやかに、キラキラときらめく彼らの言葉が、いやらしくうわっつらだけのものにならないのは、主人公たちが純粋に駅伝に取り組んでいることがひしひしと伝わってくる描写と、作者の軽やかでありつつ知性的な、信頼感ある筆致のせいだと思う。 

「走ること」よりも、「走る彼ら」の心理描写に焦点を当てて、駅伝区間を描写していたのも面白い。あくまでも普通の大学生たちだ。 苦悩も歪みも、大きすぎない。身近なものだ。 けれどそれを乗り越えて新たなステージに立ちすすんで行こうと決意する 、その時のとまどいも晴れやかさも私たちは既に知っているもので、だから応援してしまう。一緒に走っている気分になる。 

読書中は感情を揺さぶられすぎてホロリというより泣きっぱなしだった。読了後は爽やか。そしてみんなに押し付けてまわりたい気分!

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