書評:森田浩之「スポーツニュースは恐い―刷り込まれる〈日本人〉」

オルタナティブ・ブログで興味深いエントリーがあったので言及.

妻と両立? - Empowerment blog [ITmedia オルタナティブ・ブログ]

結婚したアスリートが「夫と両立」と書いてあるものは見たことがありませんし、「主夫選手」「パパさん選手」も見たことがありませんが、一方で女性アスリートが結婚すると「土佐礼子が主婦根性」(産経)と言った書かれよう。どこがどう「主婦」根性で、それが独身のときの根性と違うのか、さっぱり意味不明です。女性だけが結婚によって「ミス」「ミセス」と呼び分けられるように、結婚によって「ミセス選手」と区別をしたいのでしょうか?

女性からの手厳しいご意見.まさに同じテーマの本を先日読んだので,その内容をご紹介します.

スポーツニュースは恐い―刷り込まれる〈日本人〉 (生活人新書 232)
森田 浩之
日本放送出版協会 (2007/09)
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目次は以下.

第1章 本当はこんなに恐いスポーツニュース
第2章 女子選手に向けるオヤジな目線
第3章 スポーツニュースは "人間関係" に細かい
第4章 スポーツニュースは "国" をつくる
第5章 日本人メジャーリーガーが背負わされる "物語"
第6章 世界中で刷り込まれる "国民"
第7章 ワールドカップでつくられた "日本人"
第8章 イビチャ・オシムはなぜ怒ったか----むすびにかえて

日本の国民性からなるスポーツ報道の姿勢,その読み方を述べる本です.ジャーナリズムの本と呼ぶには引用に対する検証がなされていないので,軽く読む本かもしれません.

さて,元記事のような「スポーツニュースのセクハラ」については,本書では女性アスリートへの報道について以下の事実を指摘しています.

・「YAWARAちゃん」「Qちゃん」と「ちゃん」付にする
・パンやアイスクリームが好き,ぬいぐるみが好きといった女の子らしいプライベートな一面を強調する
・既婚のアスリートの場合,冒頭の記事のように主婦性を強調する.もしくは夫の支えを強調する

あー,あるある…優秀な女性アスリートの報道はいずれかに当てはまりますね.このように報道される理由として,スポーツの世界への女性進出との関連を著者は指摘しています.

昔のスポーツは男だけの領域だった.そこへ女性が進出してきて,男にしかできなかったパフォーマンスやプレーをやるようになった.スポーツニュースは女性の活躍に優しそうな目を向けているようにみえるけれど,内心とても落ち着かない.

そこでスポーツニュースは,すぐれた女子選手を「女性」として見せようとする.女子選手が「妻」であり「母」であることを示し,スポーツとは関係のない「女性らしい一面」を探し,「女性」の側に連れ戻そうとする.

(中略)

スポーツニュースは心のどこかで,スポーツの世界を男だけのものにしておきたがっている.それは,男性の体力や筋力が女性より優れていることを誇示できる分野が,スポーツのほかになくなってきたためかもしれない.「男にしかできない」とされる肉体労働は機械化によって少なくなり,男だけが戦地に送られてきた戦争もハイテク化が進んでいる.

著者のこの考えに対する検証や,専門家による分析はありませんが,この視点でスポーツニュースを見ると怖くなりそうです.

ちなみに,スポーツニュースに一種の「刷り込み」が使われるのは,本書によると日本に限った訳ではないようです.たとえばアメリカでは「よき父,よき夫」「成功した労働者」というロールモデルがありますし,イギリスの大衆紙では「We」という単語が踊り国民の一体感を煽るとのこと.スポーツは国威掲揚の目的で行なわれてきた面もあるので,マスコミの役割を考えると仕方ないかもしれません.

マスコミの言うことを鵜呑みにせず,うまく距離と取ることが重要という今更の結論.